身元不明の死体
仕事で知らない街に行く。
いつもより早い電車、いつもはしない乗り換え、降りたことのない駅、見知らぬ行き先。
もし今日死ぬんだとして、それがこの街だったら嫌だな、と途端に不安に襲われる。
この街の人は、きっと誰もわたしのことを知らない。
身元不明の死体が突然わが町に転がり込んできたら、歓迎する人は一体どれほどなのだろうか、いや、そもそもいるのだろうか。
それを考えるとたまらなくなる。
というかこの電車全然止まらんな。このまま暴走して乗客もろとも自爆する気なのか?痛いのや苦しいのは何とかして避けたいものだ。
いや、暴走とかだったら避けるもクソもない。そもそもわたしの意思でどうにかなるもんじゃなかった。
こんなことになるんだったら保険証とか住民票とか何とか持ってこればよかったかな、口座のお金使い切りたかったな、などとぐるぐるしているうちに、だだっ広い駅が鈍色の四角い箱から飛び出したわたしを迎える。
せめてわたしがこの土地では死なないように祈っていてくれ。